ジンセノサイドは合成できないのか?(休憩)

2014 年 10 月 1 日

研究開発室 中村

 

研究開発室の中村です。
引き続き、「ジンセノサイドは合成できないのか」と思いつつ論文を検索しています。

 

でも、合成については少し休憩。
今回は、「同定」についてご紹介します。

 

対象とする化合物の構造を特定し、種類を決定する行為を化学では「同定」といいます。

 

前回、シラカンバ葉より抽出した化合物PPDを出発物質として、ジンセノサイドRh2を合成する方法をごく簡単に紹介しました。

 

どうやって、抽出した化合物がPPDであると確認し、合成した物質がRh2の構造と確認できたのか?

 

それは様々な手段を用いて化合物の構造を特定、つまり「同定」したからです。

 

現在、出発物質の構造が確認できているならば、段階ごとの化合物の構造を想像することや、特定することは可能です。
特に、既知化合物(すでに世の中に知られている化合物)であれば簡単です。

 

しかし、世界で初めて合成した化合物の場合、構造を決定するは大変です。

 

もちろん、既知化合物から合成しているので構造を想像することはできるのですが、証拠がありません。
そこで、「同定」が必要になってきます。

 

化学分析の同定で使う機器の中でも、核磁気共鳴スペクトル(NMR)、赤外分光スペクトル(IR)、質量スペクトル(MS)は、有力かつ基本的な情報と証拠を得ることができます。

 

ところが、光学活性な化合物を区別するには他の分析が必要になってきます。

 

ちなみに、数あるジンセノサイドの中でもRg3(S)とRg3(R)は立体構造が異なり、これらは光学活性な化合物といわれています。

 

いよいよ論文を発表する際には、元素分析も必要となります。

 

特にアメリカ化学会が発行する雑誌に新規化合物を発表する場合には、計算値からの誤差が0.4%以内で一致しなければなりません。

 

かなり難易度が上がるわけですが、高精度質量分析データ(HRMS)で代替することも可能です。

 

その他、沸点や融点なども同定には重要なデータになります。

 

構造を決定するために、様々な機器分析や技術を駆使して同定するのですが、天然化合物より抽出した物質を初めて決定するには多大な苦労が待ち受けています。
既知化合物の同定のように、簡単なものではありません。

 

何しろ、天然化合物には多種多様の物質が含まれています。
その一つ一つの構造を決定するには、多くの時間と人手が必要になってきます。

 

1962年、東京大学薬学部の先生方は、高麗人参から抽出して得られた粗サポニンを希塩酸で分解し、そこから得られた化合物を再度希塩酸で分解して未知化合物(ジンセノサイド)を得ました。
その構造を特定するために様々な手法を用いています。1)

 

天然物質から一つの物質を取り出し、決定することは本当に大変です。

 

現在、多数あるジンセノサイドの構造が一つ一つ同定されていることは、高麗人参の研究を進める上でとても重要なことです。

 

大変な苦労を重ねて「同定」を成し遂げられた先生方のおかげで、立体構造を書き記すことができ、合成にチャレンジすることも可能になったわけです。
先生方に感謝しながら分析しようと思います。

 

そして引き続き、Rh2以外のジンセノサイドを合成できないかなぁ・・・と思いながら、論文検索を続けます。
何か見つけたときには、改めてご紹介いたします。

 

1) a) 藤田路一, 糸川秀治, 柴田承二 薬学雑誌 1962, 82, 1634-1641. b) Shibata, S., Tanaka, O., Nagai, M., Ishii, T. Chem. Pharm. Bull. 1963, 11, 762-765.