ジンセノサイドは合成できないのか?(4)

2015 年 6 月 3 日

研究開発室 中村

 

研究開発室の中村です。

 

これまで、「同定」や「精製」という用語について紹介してきましたが、今回はジンセノサイドの「合成」についてご紹介します。

 

以前、トリオール系の論文をご紹介したので、今回は別のジオール系の論文を選びました。

 

ジオール系のジンセノサイドRh2の合成について1)

 

出発物質は、小さい分子であるProtopanaxadiol(PPD)。

 

小さい分子から大きな分子を作ることができます。

 

 

PPDやProtopanaxatriol(PPT)は、構造式中にヒドロキシ基(-OH)と呼ばれる官能基があるため、他の官能基と置換が非常に簡便です。

 

それゆえ、出発物質に使用しやすいのだと思います。

 

逆に、大きな分子から小さい分子を合成することも可能です。

 

大きな分子中のとある結合を切断することで合成可能。ただし、切断する結合を間違えると目的化合物は生成しません。

 

目的化合物を合成する方法は多々ありますが、今回はジオール系のPPDを出発物質とした論文の紹介です。

 

PPDからRh2までは4段階反応で目的物質を得ています。

 

出発物質のPPDは、60 gの高麗人参から抽出したエキスをアルカリ条件下90℃で3日間反応し、精製して得られた2 gより反応を開始しています。

 

室温で、塩化ピバロイルで12位の炭素に結合しているヒドロキシ基を保護して1を合成。

 

次に、金を触媒に12を反応させて3を合成した後、ピバロイル基(Piv)とベンゾイル基(Bz)を脱保護してRh2を合成しています。

 

保護基を導入する、その保護基をはずす脱保護を行うなど、反応には様々な順序があります。

 

保護基を駆使することは有機合成で非常に重要なことです。この操作がなければ目的化合物を合成することは出来ません。

 

しかし、この方法で得られたRh2は、それぞれの段階で有機溶媒である塩化メチレン(CH2Cl2)を使用しているため、食品には使用できません。

 

塩化メチレンは、水と混ざらず沸点が低いので、有機化学においてはよく利用される物質ですが、PRTR法の規制物質となっています。

 

大量使用者には、購入量、廃棄量およびその差分である環境放出量の報告が義務付けられ、大気中への放出量を削減することが求められています。

 

水溶媒とは異なり、有機溶媒は簡便なので、塩化メチレンは有機化学において使用しやすいのですが、環境問題が関わってくる。

 

良いことばかりではないということです。

 

ちなみに、このRh2合成も一段階一段階ごとに精製し、同定しています。

 

13などの反応途中は核磁気共鳴スペクトル(NMR)、旋光度で同定しています。最終化合物は、元素分析も行い同定しています。

 

同定、精製は本当に大切です。

 

次回は触媒や保護、脱保護の用語に関して説明したいと思います。

 

今回の論文にもまだ別の反応がありましたが、別の機会にご紹介したいと思います。

 

1) J. Liao, J.Sun, Y. Niu, B. Yu, Tetrahedron Letters 201152, 3075-3078.