ジンセノサイドは合成できないのか?(一休憩その3)

2015 年 8 月 26 日

研究開発室 中村

 

研究開発室の中村です。

 

今回は予告していた「触媒」や「保護」「脱保護」について説明したいと思います。少し難しいですが、ついてきてくださいね。

 

さて、まずは「触媒」についてです。

触媒とは、化学反応の前後において自身は変化しない。または変化がないように見せかけると同時に、特定の化学反応を速める物質のことをいいます。

 

現在、様々な種類の触媒が開発されています。触媒は生物の体内にも存在しており、酵素がその役割を担っています。

触媒には、それ自体が有名なものの他に、触媒を利用した有名な反応が多数あります。一例を挙げますと、「Ziegler-Natta(チーグラー=ナッタ)触媒」「メタセシス反応」「不斉反応(ふせいはんのう)」「クロスカップリング反応」などがあります。

この中でも特に「不斉反応」「クロスカップリング反応」は、日本人の先生がノーベル化学賞を受賞しています。

 

不斉反応は、2001年に野依先生が『BINAPによる不斉水素化』で、ノーベル化学賞を受賞されています。野依先生が開発したBINAPは、ハッカの香りとして有名なメントールや、ある種類の抗生物質などで利用されています。

クロスカップリング反応は、2010年に鈴木先生と根岸先生が『パラジウム触媒を利用したクロスカップリング反応』でノーベル化学賞を受賞されています。現在、クロスカップリング反応は、医薬・液晶材料・半導体などの製造において、欠かせない反応となっています。

ジンセノサイドの合成では、金、銀、酵素などを利用した例などがあります。

 

次に「保護」「脱保護」についてです。

有機合成においての「保護」とは、反応性の高い置換基を不活性な官能基に変換しておくことをいい、その不活性な官能基を保護基といいます。また「脱保護」とは、保護基が必要な反応を終えた後に、適当な反応を行うことで保護基をはずすことをいいます。

有機合成では、反応の手順を考える上で「保護」「脱保護」が重要になってきます。というのも、これらを適切に行わなければ、目的化合物を得ることが出来ないからです。

また保護基は、

①溶解性の向上・極性の低減

②結晶性の向上

③生物活性の変化

④揮発性の変化

⑤構造解析の易化

⑥反応性の変化

以上、6つのことを期待して用いることがあります。

とはいえ、保護基の主な目的は、“特定の化学反応から官能基を保護すること”です。それゆえ、目的に応じた反応性を得るために、沢山の種類の保護基が使用されています。

反応性の高い置換基としては、ヒドロキシ基(-OH)、1,2-ジオール、1,3-ジオール、アミノ基(-NH2)、カルボニル基などが挙げられます。

一例として、ヒドロキシ基を持つ化合物である、アルコールを取り上げたいと思います。

アルコールの保護に利用される代表的な保護基は、ベンジル(Bn)、メトキシメチル(MON)、t-ブチルジメチルシリル(TBS)、アセチル(Ac)、ベンゾイル(Bz)などがあります。これらの保護基は、脱保護も簡便に行うことが出来ます。しかし、脱保護をする際には手順を考える必要があります。

ジンセノサイドの合成における「保護」「脱保護」ですが、今までに紹介した論文での出発物質はProtopanaxadiol(PPD)やProtopanaxatriol(PPT)となり、構造式中にヒドロキシ基が含まれています。反応性が低い部位もありますが、例えば3つのヒドロキシ基のうち1つのみ反応させたい場合、残りの2つを保護して反応性を低くさせてから、目的のヒドロキシ基を反応させ、脱保護しています。ヒドロキシ基が多数ある場合も、保護して、反応させて、脱保護する。この順序は変わりません。このように、目的のジンセノサイドを合成する時も、「保護」「脱保護」を駆使しています。

今までに紹介した論文中ではPiv-(ピバロイル基)、Bz-などが、保護基として利用されています。

本当に「保護」「脱保護」は大切です。

今後紹介するジンセノサイドの合成でも、「触媒」や「保護」「脱保護」など、多数の用語が出てくると思います。その時も今回と同様に、用語の説明を交えつつ、新しい合成を紹介できたらいいなと考えています。