ジンセノサイドは合成できないのか?(休憩その2)

2015 年 3 月 11 日

研究開発室 中村

 

研究開発室の中村です。

 

以前、合成のお話を少し休憩して「同定」についてお話しました。
今回は、同定するために必要な行為である「精製」についてお話したいと思います。

 

ある目的物質を合成するためには、出発物質として同定(構造が決定)された化合物が必要となってきます。その同定された化合物で、合成の各段階の構造を決定していきます。
有機合成では、構造を決定することを構造解析とも言い、「構造が決定できる」と「同定できている」とみなします。

 

しかし、構造決定されたもの同士で合成しても、反応で必ず目的物質だけが得られるわけではなく、少しは違うものも合成され、混合物となってしまいます。
※目的物質が生成される反応を「主反応」、それ以外の物質が生成される反応を「副反応」といいます。

 

構造決定において、混合物の状態では特定の構造を決定できないため、「精製」を行う必要がでてきます。

 

「精製」を行うと、特定の化合物を高純度で取り出すことが出来ます。
取り出すことを「単離」といいます。

 

「精製」で「単離」した化合物でなければ同定、すなわち構造決定は出来ません。
核磁気共鳴スペクトル(NMR)、赤外分光スペクトル(IR)の結果が複雑になってしまいます。

 

以前、「精製」ができていない状態でNMR測定をしようとしても読み取ることが出来ず、「精製」をしてから再度測定し直した経験があります。
目的物質を単離する「精製」はとても重要です。

 

 

代表的な精製方法には、「蒸留」「再結晶」「カラムクロマトグラフィー」などがあります。
他にも「昇華」や「再沈殿」があります。
※「昇華」は固体から気体に変化すること。(ドライアイスが代表例)
※「再沈殿」は高分子合成においてモノマーを除去する目的でよく使用される。

 

今回は、代表的な三つの精製方法について詳しく説明します。

 

  • 「蒸留」
    液体同士の沸点の差を利用して精製、または固体が溶解した液体から液体のみを単離する方法。
    蒸留法も様々あり、その中に水蒸気蒸留法がありますが、これはエッセンシャルオイルを作る方法の一つとして利用されています。

 

  • 「再結晶」
    固体の精製を行う方法の1つで、溶解度の差を利用して結晶を析出させます。高い温度では溶解している固体が低い温度になると析出します。
    ただし、低温でも一部の固体は液体に溶解しているのでロスが生じます。
    だからこそ多量の固体が必要となります。
    結晶化にも温度コントロールをして結晶を析出させる方法だけでなく、様々な方法があります。

 

  • 「カラムクロマトグラフィー」
    蒸留でも再結晶でも精製できない場合によく使用します。筒状の容器に充填剤と呼ばれるシリカゲルなどを入れ、分離、精製したい反応混合物を液体に溶かした状態、または充填剤に吸着させた状態で加えた後、充填剤との親和性(結びつきさすさ、吸着しやすさ)や分子の大きさが異なることを利用して、分離、精製を行います。
    私も合成したときには反応ごとにカラムクロマトグラフィーで目的物質を単離していました。

 

天然物から目的物質を単離するためにも精製は必要となってきます。
合成においては精製せずに次の反応へ進むと多種の副反応が生じ、目的物質が生成される割合が減少してしまいます。
なるべく副反応を生じさせないためにも精製し、目的物質を単離して次の反応に使用します。

 

前回に紹介したジンセノサイドRh1の合成[1]も、出発物質のProtopanaxatriol(PPT)を単離する際にはシリカゲルが充填剤のカラムクロマトグラフィーで精製しています。
PPTからRh1へも段階ごとに精製してNMRや他の分析法を駆使して同定し、次の反応での副反応をなるべく減少させて進んでいます。

 

このように合成ができるのも精製、単離、同定によりジンセノサイドの構造が解明されているからこそだと考えています。先生方に感謝です。

 

「精製」についてのお話はこれぐらいで終了します。
次回からは、ジンセノサイド合成の紹介に戻り、用語説明もしたいと思います。

 

[1] J. Yu, J. Sun, Y. Niu, R. Li, J. Liao, F. Zhang, B. Yu, Chem. Sci20134, 3899-3905.