ジンセノサイドは合成できないのか?(3)

2014 年 12 月 3 日

研究開発室 中村

 

研究開発室の中村です。
前回は「同定」について簡単に紹介しましたが、今回は「合成」について紹介します。

 

そもそも、合成するためには綺麗な化合物、つまり何も混合されていない、かつ同定されている既知化合物(すでに世の中に知られている化合物)が必要となってきます。

 

様々な化合物を含むサンプルを使用すると、合成したい化合物(目的にしている化合物)が生成される確率が減少してしまうからです。

 

たとえ、単一な化合物(何も混合されていない綺麗な化合物)を使用しても、副反応(目的ではない他の反応)が起こり、副生成物(目的物質以外)を合成してしまう恐れがあります。
その場合、数種類の混合物から目的物質のみを取り出す作業が必要になってしまいます。

 

以前、5種類の混合物より目的物質を取り出す作業をしたとき、取り出す前のサンプル約80 mg (0.08 g) に対して、取り出せた目的物質はわずか10 mg程度でした。

 

反応に使用したサンプル量が多ければよかったのですが、目的物質が合成されているのかを確認するために実験室で行った反応だったため、少量になってしまいました。

 

さて、ここからが今回の本題です。
とある論文に記載されている「トリオール系のジンセノサイドRh1の合成方法」について紹介します1)。

 

出発物質はProtopanaxatriol(PPT)です。
構造式中にヒドロキシ基(-OH)と呼ばれる官能基(有機化合物の性質を決定する特定原子が集合したもの)が4つあるので、他の官能基と置き換えることが可能です。

20141202_naka_01

この論文では、PPTを他のジンセノサイドが混合したサンプル(天然物質)から取り出しているため、反応後はいろいろなものが混ざったままです。そのため、洗浄、精製を行い、PPTを得た段階で、同定をして構造を確認しています。

20141202_naka_02

得られた出発物質PPTにあるヒドロキシ基の一つが置き換えられてAが得られ、次に、また別のヒドロキシ基が置き換えられてBが得られています。反応が起こりやすい順に導入していますね。
これらAとBを得る反応によって、次のCを得る際に反応して欲しくない部位を保護しています。

 

そうして、グルコース誘導体①を特定のヒドロキシ基に導入し、最後に加水分解で目的物質Rh1を得ています。このときに、保護していた部位を元のヒドロキシ基に戻しています。

 

ちなみに、①のグルコース誘導体は、グルコースのままだとどの部位が反応するのか不明なため、目的の反応が起こりやすくなるような構造にしています。

20141202_naka_03

このように、合成には様々な順序があります。
保護基を導入したり、その保護基をはずす脱保護を行ったり、反応方法を変更したり・・・様々な方法で合成を行っていきます。

 

私自身、過去に他のさまざまな反応を行ってきましたが、机上では進んでも、実際には思い通りに反応が進まないこともあり、苦労した憶えがあります。

 

ちなみに、この論文も一段階ごとに同定しています。核磁気共鳴スペクトル(NMR)、構造式中にグルコース部位を有しているので旋光度、さらに高精度質量分析データ(HRMS)で元素分析を行っています。これらは化合物独特の値ですので、同定できています。

 

この論文にはPPTを出発にした反応が他にもありますので、次回以降ボチボチと紹介していけたらいいなと思っています。

 

そして今後も、「PPTより小さな化合物」から出発することは出来ないものかと考えながら論文の検索を続けます。

 

1) J. Yu, J. Sun, Y. Niu, R. Li, J. Liao, F. Zhang, B. Yu, Chem. Sci. 2013, 4, 3899-3905.