ジンセノサイドは合成できないのか?(5)

2015 年 11 月 25 日

研究開発室 中村

 

研究開発室の中村です。

これまで「同定」「精製」「触媒」「保護・脱保護」についてのお話しをしてきました。

今回は、「合成」についてお話しします。

今まで紹介した合成は、トリオール系、ジオール系のジンセノサイドの合成でした。

今回は、オレアノール系のジンセノサイドRoの合成を紹介します(Scheme 1)1)。

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Schmem 1. ジンセノサイドRoの合成

論文に書かれている、ジンセノサイドRoの簡単な合成についてご紹介します。

出発物質はProtopanaxadiol(PPD)やProtopanaxatriol(PPT)ではなく、オレアノール酸です。

オレアノール酸は、多くの植物に含まれるトリテルペンの一種であり、28位にカルボキシ基(-COOH)を有する五環系トリテルペンです。

Roの合成には、このオレアノール酸が用いられます。

まず、オレアノール酸の28位のカルボキシ基を保護し、3位のヒドロキシ基に触媒を用い、別途合成した化合物2を導入します。

次に、保護していたカルボキシ基と2の3’位を脱保護したのち、28位のカルボキシ基と3’位のヒドロキシ基(-OH)に化合物3を反応させます。

そして、導入した化合物2のアセチル基(-Ac)を酸で加水分解し、ヒドロキシ基に戻します。

最後に、結合しているベンゾイル基(-Bz)、ピバロイル基(-Piv)を脱保護すると、ジンセノサイドRoが得られます。

ちなみに、導入した化合物2と化合物3には、すでに保護基が導入されています。これは、ヒドロキシ基の反応を防ぐためです(Scheme 2)。

糖はヒドロキシ基を5つ持っており、そのままでは反応性が高く、保護していなければどこの部位に反応するのかわかりません。

そのため、導入した化合物2と化合物3は、ヒドロキシ基が保護されているのです。

また、別途合成した化合物2ですが

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Scheme 2. 化合物2の合成

 

化合物2は、化合物Aから6ステップで得られます。

化合物Aの2位のヒドロキシ基を保護して開裂させ、4、6位のヒドロキシ基をアセチル基で保護して3ステップで化合物Bが得られます。

次に1位を反応させると、化合物2を3ステップで得られいます。

得られた化合物2を用いています。

 

有機合成では、導入する化合物を合成することもあります。

たとえば、試薬で購入できない場合などは、導入したい化合物を合成している論文を探して合成します。

 

今回も、ジンセノサイドRoを得るまでに、何度も合成を繰り返しています。

このように、合成を繰り返すことを「多段階合成」といいます。

有機合成化学の多段階合成において、目的化合物を得るために効率的な合成経路を決定するやり方を「逆合成解析」といいます。

 

逆合成は、最終生成物(目的化合物)から出発し、既知の化学反応を元に各段階の反応物を導き出す手法です。複雑な化合物を合成する場合には、必須の概念です。

逆合成は難しいですが、合成を考える時にはとても大事な考え方です。

次は、逆合成や立体構造についてのお話をしようと考えています。

[1] W. Peng, B. Yu et al., SYNLETT 20042, 259-262.